by Dr. Hideto Tomabechi Dec 17, 1997
●光過敏性てんかんではないのでは
もしも光過敏性てんかんであった場合は、問題となっている約4秒間の点滅シーンのようなシーンは他のアニメでも多用されており、過去に同様な問題が多発しているはずである。光過敏性てんかんという診断がポケモン放映日の翌日の夕方、夜のニュースで精神科の先生方から下されていた。おそらく、これは通常の精神科の検査で、てんかん因子を持つ人のスクリーニングに点滅する光を見せるという検査が日常的に行われており、今回の問題のシーンは似通った性質のものであるため、そのような判断がなされたものと思われる。すなわち、精神科において、通常行われているPPR(photoparaxysmal response)検査においては、断続的な強い光のフリッカリングを見せてそれによる脳波異常を調べるといった検査が日常的に行われており、今回のポケモンの問題となった数秒間が、テレビを通したPPR検査の役割を果たし、倒れた子供達がてんかん性の因子を持つと診断されたものである。
ただし、てんかん因子を持つ子供の場合、フリッカリングにより、脳波異常等の問題が引き起こされる可能性が高いことは事実であるが、逆に、フリッカリングにより、倒れたからと言って、それがてんかん因子を持つことを示すという因果関係にはならない。このひとつの問題は、倒れた子供達に対して、「あなた達は、てんかん性である」という事実上の診断を下したことになり、これによる、その子たちのその後の生活への影響まで考えると、これは問題ではなかろうか。Waltz(1993)によれば、PPRに異常反応した子供達のうち、成人までに、てんかん症と診断されたのは約3%にすぎない。3%というのは、人口比率から言うと、非常に大きいが、てんかん症であれば、PPR異常があるということからはうなずける数字でもある。ただし、残りの97%は、そのような因子を持たない子供達ということになる。
●早い点滅と遅い点滅の繰り返しが危険
今回の問題は、約30ヘルツの点滅が数秒間おこなわれた問題のシーンのみに関わる原因ではなく、約10分間に渡って30ヘルツ程度の2,3秒から数秒の速く、また強い光の点滅と、それに続く、数秒から数十秒の長さの5ヘルツから10ヘルツ程度のゆっくりとした光の点滅のパターンの繰り返しが影響を与えたと考えられる。このようなパターンのプログラムは、いくつかのメーカーから製品化されている光バイオフィードバックの機器でも利用されており、これらの機器では刺激呈示は、閉眼で行われるが、苫米地(1993)などの実験では開眼でも脳波に強い影響を与えることが確認されている。
このメカニズムは、光過敏性てんかんにあるような、てんかん因子を持つ子供達における視覚野への断続的な強い光の影響による直接的な物理的介入によるもののみに限られず、意識変性が引き起こされることによるものと考えられる。すなわち、脳は脳波の周波数に似通った周波数の刺激により、強い影響を受け、心理的には変性意識状態が引き起こされることが上記の論文などでも報告されているとおりである。また、変性意識を引き起こすに当たって、β波領域の周波数(特に20〜60ヘルツ程度)とα波領域以下の周波数(3〜12ヘルツ程度)の周期的な繰り返しが有効であることが知られている。今回のポケモンは、正にこのパターンどおりであった。
●その他にも催眠的な副次的手法が見られた
また、番組の中で、メトロノームの音がまず聞こえてから、その後に振り子が振られるなどといった、まずイメージさせるもののキューを与え、その後から実際にそのイメージを見せるといった催眠誘導で利用される手法に相当する効果も用いられており、さらに、渦巻きやヒプノディスクに似た回転する同心円などの、イメージが多用されており、これらも変性意識生成に副次的な作用を与えたと思われる。そのほかに、後半にはいわゆるリラクゼーションミュージックのような効果音も利用されており、これらの音そのものの解析はまだ行っていないが、何らかの効果を与えていたはずである。
●仮説を支持するいくつかの証言
ところで倒れた子供達の各局のインタビュに、この仮説を裏付けるいくつかの証言があった。例えばある子供は、なぜ倒れたかという質問に対して、「疲れた」というアニメの主人公の言葉を聞いたら急にぐったりして倒れたと言っている。これなどは、光過敏性てんかんという診断では説明できない現象だが、光誘発性の変性意識生成であったと考えると、暗示に反応をしてしまったということでたやすく説明できる。また、子供によっては、一時的な記憶障害に陥ったと報告されているが、これなどは特に催眠でみられる変性意識現象の顕著な例である。また、急激な催眠誘導そのものでもめまいを起こしたり、失神したりすることも知られている。さらに、催眠がうまくいった場合、覚めさせる手続きを順当に経ないと、吐き気をもよおしたり、失神したりすることも知られている現象である。このように、筆者の仮説ではまず、β領域の周波数の強い光の点滅と、α領域以下の弱い光の点滅のパターンの繰り返しが変性意識を引き起こしていた上で、最終的に特に問題となっている数秒間の赤、青の30ヘルツ台の刺激呈示がβ領域の不快な刺激を強く与えてしまったからであると考える。簡単に言うと、『バッドトリップ』を引き起こしてしまったのである。本来、αバイオフィードバックなどでのプログラムでは、プログラムの最初の方でβ領域の強い光を与え、その後徐々にαや場合によってはシータ領域のゆっくりとした点滅にβ、αといった繰り返しをしながら徐々に周波数を落としていくのが順当であり、それにより、変性意識の中でより心地よいリラクゼーション状態へ導くのが正しいあり方である。
●ポケモンのバッドトリップパターン
ポケモンではこの逆を行ってしまった。最終的な数秒間の赤、青のβ領域の刺激呈示がそれ以前のβ領域の刺激呈示よりも遙かに強く、また時間も長く、正に不快感を引き起こすための負のバイオフィードバック的なプログラムを行ってしまったと言える。これにより、この数秒間で多くの子供達が強烈すぎるβ領域の刺激に強い不快感を感じたに違いない。もちろん、単純に変性意識下における被暗示性の昂揚により、「疲れた」などのネガティブな言葉に反応した子供達もいただろうし、また変性意識体験そのものに「拒絶反応」を示した子供達もいるだろう。また、β刺激で番組が終わる唐突な変性意識の終わり方に、いきなり催眠から覚まされて吐き気をもよおしたり、倒れたりする催眠被験者としての反応を示してしまった子供達もいると思われる。
●倒れなかった子も危険
このように、α、βの周波数のパターンの繰り返しのプログラムが存在したことにより、意識変性が促されたと考えることによって、他の番組でも、数秒間の30ヘルツ程度のフリッカリングがあるのに、これまで倒れるといった現象が報告されていなかったことが説明できる。繰り返しのパターンが問題であったのである。
ところで、以上書いてきた仮説をベースとすると、ひとつ警鐘を促さなければなるまい。これは倒れなかった子供達こそ危険であるということである。1000人の子供達が倒れたとすると、これは1000人が強烈なバッドトリップを体験したと言うことであるが、この数の何十倍、何百倍のグッドトリップを体験した子供達がいるに違いないと言うことである。つまり、ポケモンの番組そのものが、快感を与え、また、ポケモンのバーチャル世界に強い臨場感を感じた子供達が何十万人といたに違いないと言うことである。これは、一晩にしてポケモン教信者の子供達が数十万人生まれたということになる。
●更なる潜在的危険性
運良くポケモンは、際だって暴力的な番組でもなく、また反社会的なメッセージが込められているわけでもなかった。しかしながら、もし、この番組が暴力的であったりした場合は、場合によっては1000人の酒鬼薔薇聖斗が生まれていたかもしれないのである。1000人が倒れるほどのバッドトリップを経験したと言うことは、同様に、1000人規模で、あっちの世界に飛んでいってしまうような強烈なグッドトリップを経験した可能性がある。強烈な変性意識体験では被暗示性が著しく昂揚し、臨場感が現実世界以上に感じられる。つまり、バーチャル空間や『マハニルヴァーナ』が現実世界以上にリアルであると感じられる子供達が1000人生まれてしまっていた危険性がある。その意味で、今回のポケモンのプログラムパターンは、『洗脳的』であった。もしも、問題の数秒間が番組の出だしにあり、その後、α周波数帯(8〜13ヘルツ)、β周波数帯(14ヘルツ以上)の繰り返しが今回の番組とは逆にだんだんαやもっと低いシータ領域に誘導していく形で組まれていたならば、1000人も倒れるようなことはなかったはずであり、逆に強烈に快感を感じてしまったグッドトリップを体験した子供達がもっとたくさんいたはずである。この場合、もちろん倒れる数は数百人という規模には行かなかったはずなので、このことが社会問題となることもなかったであろう。ただし、この場合こそ正に、ポケモンがカルトアニメとして、ポケモン教信者を多数生み出していた可能性が高い。ところで、最近に人気のある某アニメなどにこのような要因は認められないのであろうか?
|